鎌倉琴社   雜記録 2009


2009年8月11日


 劉楚華先生が鎌倉琴社を来訪しました。劉先生は香港琴界の第一人者であり、現在香港浸會大學教授、中國傳統文化研究センター長をつとめております。故蔡徳允老師の愛弟子で、老師亡き後その風韻を今に伝えてくれています。1996年にCD『水仙操』を発表し、『姜白石詞擬唱』のCDなどがあり、香港において琴会、古琴シンポジウムなど盛んに行っております。
 香港は文革の波を受けることなく古い中国文化が温存され、解放以前の伝統的な琴もそのまま伝わって今に受け継がれております。その意味では香港琴派は中国古琴の正統派と言えるでしょう。大陸の琴は、解放以後、現在にいたるまでほとんどの琴人がスチール絃を使用しています。これは文革の後遺症というべきものです。伝統的琴音のその音色を変えてまで大衆化を目指すというのは大きな過ちであり、琴音を改変してしまうのは破壊行為にひとしく、あえて言うなら新たな楽器の創出とされるべきものです。蔡徳允老師の流派は皆琴に絲絃を張ることを頑に守っております。ユネスコ世界無形文化遺産に登録された琴は絲絃琴であってスチール絃琴ではないはずです。大陸の琴人でも、蘇州の汪鐸氏、またニューヨークのジョン・トンプソン氏は絲絃を提唱し、カナダの黄樹志氏は伝統的中国絲絃の研究、監修製造をしており、彼等は「絲絃派」と呼ばれるべき人々です。


 鎌倉駅に劉先生を迎えにゆき、すぐに光明寺に観光に参りました。先生は山登りが好きで、明日は日光の山を登るとのこと。ここへ来る間も、北鎌倉から円覚寺、建長寺を通って歩いて来たそうです。自然に親しみ愛することは、琴人の姿勢として最も大切と言える志向です。
 光明寺の庭は蓮の花が盛りで、池のほとりには亡憂も咲いておりました。その後、材木座海岸で海をながめ、琴社に向かいました。
 書斎において、劉先生は『神奇秘譜』から「流水」、随行した劉可盈女史は「慨古引」、私は「逍遥遊」を弾じました。劉先生は一音一音慈しむように悠然と琴を奏でられ、その琴音に中国文化の神髄を感ぜずにはいられませんでした。大陸の琴人たちは劉先生をアマチュアとして疎外する傾向にあるようですが、それはミュージシャンの琴を持てはやし、文人の琴ということをなおざりにしてしまっているからでしょう。劉先生は現在、斲琴をなさっていて、理想の琴を自身の手で製作されているとのこと。琴を作れる環境にあるというのはたいへん羨ましいことです。夕方近くまで歓談はつきず、琴に対する考え方、思いに、頷きつつ共通のものを確認し合い、再会を約しました。








弾琴する劉可盈女史











雜記録 2005


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